精神分析のススメ

1970年代のNYCで一世を風靡したヒップな精神分析の啓蒙をめざす狂気専門家のブログです。

【ゴールデンカムイ】罪悪感のないサイコパス その1 尾形

尾形の最期が「良かった」ので

書いてみる。

 

反社会的性格障害(サイコパス)とは

ざっくり云うと

罪悪感と共感が欠如するため

躊躇なく他者に危害を加えられるモノ

ってことだが

どんなに頑張っても

自分を褒めてくれない「母」を殺した

尾形の倫理の破綻は

「嘘」しかつかない鶴見の邪悪さに匹敵する。

と常々思ってた。

「殺す」事しかできなかった彼が

最期に「殺さない」少女を護る「愛」を回復して

自害してくれたので*1

「救い」がアル

と思った。

 

アニメの影響もあるのか*2

psycho-pass.com

サイコパス」はジャパンのツイッタでも良くみかけるが

色々な意味で使用されているのが興味深い。

 

私的にはサイコパスには2種類アル

と思っている。

 

鶴見的に*3

己の目的のためには

ドラマチックな嘘で他者を「利用する」タイプ

尾形的に

他者を必要とせず

己にとって邪魔なモノを粛々と

冷血無慈悲に「排除する」タイプ

だ。*4

 

児童虐待精神疾患の関連を説いた

サンドール・フェレンツィの弟子(?)

マイケル・バリント

人は

能動的に愛する事よりも

受動的に愛される事を根源的に望む

といったが

「愛されて心地良い」原初的体験には

2つの側面がアル

とも云っている。

 

他者の存在が邪魔で

「独り」で居る事が快

というフィロバティックな側面

他者の不在が恐怖で

「一緒」に居る事が快

というオクノフィリックな側面

である。

 

サイコパスにも

鶴見的に他者を必要とする

オクノフィリックと

尾形的に孤高な

フィロバティックが居る

と思ってる。

 

「山猫」と揶揄される尾形には

狩った獲物を褒めて「くれるモノ」が欠如しているが故

母を殺した「罪悪感」もない。*5

 

フロイトにとっては

「罪悪感」とは

超自我」が「自我」に課すモノであり

規制(=愛する「父の否」)に

従順に従えない

5歳児の「葛藤」に端を発している。

 

フロイトの考えを継承しようとした

クライン女史は

罪悪感(=鬱)の原初的体験とは

愛する「母」を喰い付くし

破壊してしまった

新生児の慄きである。

と云う。

 

失われたおっぱいが

幾度も口の中に戻ってくることで

嬰児は「愛」を再確認し

「感謝」と「修復」の能力をもって

自我の安定を獲得する。

というのが

更に後のネオクライニアンによる

「螺旋状発達」の考えだ。

 

尾形の母は

失った「父」に執着し

息子を愛せなかったが故

息子に殺された。

 

愛しあえない父母は

息子に愛を与えられない。

 

手に入らない母の愛を得る為に

自分で獲物を狩る事を覚えた尾形は

大切なモノを「失う恐怖」も

「罪悪感」も感じない。

 

「群れを皆殺し」にしてしまう

尾形の「強さ」は

喪失のイタミも

大切なモノを守り修復する愛も

必要なモノを必要な「だけ」しか

獲らない自己規制も欠如した

「無駄」で「邪悪」なモノだ。

 

己の「欠乏」が故

「羨望」と「貪欲」に駆られるモノが

「良いモノ」を壊滅する

クライン女史が云うように

「愛」がない尾形は

両親にぬくぬくと護られた「理想の息子」を殺しても

罪悪感を抱かない。

 

尾形が弟を妬む描写は薄いものの

彼の罪悪感の欠如は

「良いモノ」を壊滅する「羨望」が所以だろう。*6

 

そんな

愛も罪悪感も欠如した

「無敵」な尾形が

男達にドロっとしたチタタブを

離乳食さながら

スプーンで食わせる

母的なモノでもあり

「人は殺さない」という

規律を守る

父的なモノでもある

少女アシリパ

旅路を共にすることで

最期に「光」を見出し

「罪悪感」に敗けて自害する。

 

という結末には

ネオクライニアンの云う

「うつ」と「罪悪感」の訪れと共に

「愛」が深まる

螺旋状発達の「始まり」が感じられ

トリカブトでラリっていたとは云え)

尾形も大切な「理想」を護る

「愛」と「倫理」を回復できて

「ああ、良かった」

ってなった。

 

ダークなので

尾形が鶴見を殺って

「嘘つきな父」の愛から兵士達を解放して

「救い」のない「正義」という

殺戮の連鎖にハマる

って結末でも「良かった」のでは…

とも思うが。

 

尾形のオルターエゴ

「愛される」杉元の分析はこちらです。

 

neofreudian.hatenablog.com

 

neofreudian.hatenablog.com

 

neofreudian.hatenablog.com

 

*1:弟の「亡霊に負けた」という側面もアルものの…

*2:因みにサイコパス(Psychopath)が Psycho-pass になるのは日本語ならでは^^;

*3:鶴見編はこちらです

 

neofreudian.hatenablog.com

 

*4:こんな分類は「理論上」のモノで現実には「混ざった」タイプしか居ないが

*5:「現実的」にはむしろ「父が自分を捨てたのは売女だった母のせいだ」と母(オンナ)を憎悪し、同一化対象の父を理想化するのが「普通」だろうとは思うが。

*6:フィロバティックな尾形にとってまとわりつく弟の「愛」はウザいだけって側面もアルだろうな