精神分析のススメ

1970年代のNYCで一世を風靡したヒップな精神分析の啓蒙をめざす狂気専門家のブログです。

【ゴールデンカムイ】戦争の狂気その4:杉元の罪

無意識への王道は夢だ

 

という言葉が精神分析にはアル。

 

ユング派の夢分析では

登場人物は全て「自分」だ

と云う。

 

らしい。

 

作者の「無意識」から生まれる

「物語」の登場人物も又

オルターエゴ達だ。

と私は考える。

 

以下ネタバレバレです。

 

以前

ゴールデンカムイ」は

信用できない「父」を克服する「息子」の

エディプス譚だ

と書いた

 

neofreudian.hatenablog.com

杉元の

「エディプスの軛」については

全く掘り下げなかった。

 

ので

リベンジしてみる。

 

エディプス譚が

原初的トラウマたる所以は

息子が父を殺し

母を娶る「罪」を

「知らずに」犯してしまう

という点に尽きる。

 

だからこそ

「罪」に慄くエディプスは

己の目を潰して流浪の旅に出る。

 

杉元の戦争の「傷」は

飢餓だ。

と書いたが

家族を伝染病で失くした杉元の

故郷への愛着と思慕の対象である

初恋の相手の梅ちゃん(母)と

戦友でもあり恋敵でもある寅次(父)は

フロイト教授的には

ベタベタな「エディプスの三角」を形成する。

 

「父のモノ」である「母」への

「叶えてはならない恋」が

息子の

規制心や倫理発達の原点にアル

というのが

エディプスコンプレックスと

超自我」が紐づく所以だ。

 

フロイト教授なら

夫(寅次=父)の信頼を裏切らない

梅ちゃんは

叶えてはならない理想の愛の対象「母」である

と解釈するだろう。

 

寅次は

「目の悪いコブ付き女なんて誰ももらってくれねえ」

と杉元を「誘う」が

杉元は

梅ちゃん(母)を「自分のモノ」にしたい「欲」

大好きな寅次(父)の信頼に応えたいという

「葛藤」に苛まれる。

 

彼の「戦い」は

梅ちゃんを助けはしても

愛を成就してはならない

という神経症*1なモノである。

とも云えよう。

 

杉元の「お話」は

母を喪失し「飢餓」に苛まれる息子*2

狩りを覚えて「自立」するお話でもあり

家族と「一緒に」死ねなかった「不死身」の息子が

家を焼いて故郷を去るしかできなかった

「ヤクタタズ」の「罪悪感」と戦うお話でもある。

 

鶴見の第七師団には

「父」を殺す息子達がウヨウヨしているが

父が病に斃れた杉元がお話の「始まり」で

「殺すべきモノ」*3

「自然の摂理」に従って冬眠しそこない

子熊を喰らうオスだ。

 

襲いかかる「男」の「代わり」に羆を殺す

「始まり」は

杉元の「父」を「見殺し」にした罪悪感の象徴でもあり

「母」を喪い

オスに喰い物にされる

「子供」の反逆の象徴でもある。

 

ゴールデンカムイ」の最後で

「地獄への特急列車」に唐突に乗り込んでくる熊は

アシリパが「殺るべき」(杉元には殺せない)

「罪悪感」の象徴だ。

と私は「解釈」する。

 

熊(罪悪感)はアシリパに殺られるが

杉元は

「殺るべき」尾形も鶴見も殺らないで

「大団円」に至る

というのも

杉元が「理想のヒーロー」だから

なのか…

 

哀しいサイコパス達に共感し

「理想化」し

彼らの「罪」を「水に流して」しまうジャパンだからなのか…*4

 

杉元がアシリパを「助け」役目を果たした報酬で

「花屋」を営む*5梅ちゃん(母)への「罪悪感」と「愛着」から

開放される。

というハッピーエンドは「辻褄」が合っていて

大変良かった。

 

なんぼなんでも都合良すぎやろ

と思ってしまう

ダークな私の率直な感想はこちらです。

 

 

neofreudian.hatenablog.com

 

*1:「充足」を知らない「我慢」はすべからくヨロコビを「否定」する神経症的なモノだ

*2:そういう意味では「邪悪」な尾形は「善良」な杉元のオルターエゴ(影)だ。し「当然」のようにアシリパ(母)から愛される杉元は尾形の「理想の弟」でもある。実際話中、杉元は東京で尾形の弟になっている。熊が鶴見ではなく尾形との死闘の間に現れる事からも(ストーリーに登場しないものの)杉元に襲いかかるのは「愛されない兄弟」を殺して生き残った罪悪感だとも解釈できる。

*3:「生き残りたければ殺せ」と云うのが「父」ではなく少女アシリパなのが興味深い

*4:実際鶴見は罪を贖う事なく「水」に流されてしまった

*5:売春窟の「置き換え」だとすると…身体を売って子供を養う「母」への息子の罪悪感とも読める。放置しておけば目が見えなくなってしまう「病」も身体を売って罹った「梅」の毒か…?ともなる。梅ちゃんに「待って」もらえなかった杉元は芸者だった母に愛されなかった尾形のオルターエゴだ。