精神分析のススメ

1970年代のNYCで一世を風靡したヒップな精神分析の啓蒙をめざす狂気専門家のブログです。

炎上CM と 分かりやすい「正義」の欠如

しばらく前になってしまいましたが…

この記事の著者に、めっちょこカシコイーと、シビレてしまいました

finders.me

ブコメでも書きましたが、

今まで読んだ中で一番、「アメリカで今、起こっていること」が

うーん、納得!

できる描写だと思います。

 

ナイキの宣伝はターゲット層が熟考されているため

頭の固い白人層は怒って離脱してしまったものの、

スポーツ用品を買う大多数のマイノリティ+小金持ちリベラルな若者には

受け入れられる

上手な炎上だったが

牛乳石鹸とブレンディの宣伝は

獲得ターゲット層(=男性は石鹸もミルクコーヒーも買わない?)

を誤ったが為

下手な炎上と相成り、売上が落ちた。

という主旨で

うーむ!流石はマーケティングのプロ!

 

と唸らせる明晰な分析も素晴らしい。

 

とはいえ、ナイキの炎上と日本の炎上では、

ターゲット層を超えた根本的な「倫理」の取扱が

成功と失敗の分け目になったのでは…

と感じるので、書いてみます

 

ナイキの宣伝については、上記の記事に書かれているように

 

黒人差別問題に抵抗する選手を讃えるという

 

政治的に明確で「正義感」に訴える崇高なメッセージがあります

 

牛乳石鹸も、ブレンディも

世の中の矛盾や「建前」に肉薄する内容ではありながら

そこを切り崩したからといって

「すっきり」キレイに「正義」を感じられないトコロが

強烈なインパクトは与えられたものの

広告としては失敗した所以ではないか

と私には感じられます

 

私もしばらく前に3記事(!)にも渡って書きましたが

(そこまで思い入れていたとは…自分でもびっくりです)

牛乳石鹸で、「さ、洗い流そ。」では済まされない時。 - 精神分析のススメ

牛乳石鹸を嫌悪する人々は MBTI の F (感情型)なだけ? - 精神分析のススメ

牛乳石鹸と、父親不在 - 精神分析のススメ

 

この方が秀悦な分析でまとめられておられるように、

mistclast.hatenablog.com

 

牛乳石鹸の炎上案件は

 

お父さんも思うトコロあって、

父親として頑張ることに心を注げない

という…

乗り越えがたい葛藤を抱えているんだ…

という

このポスターもそうですが、

日常のストレスから

特に(意識的に)相手を憎悪する理由もなく

理不尽に他者を傷つけてしまう罪悪感を

キレイさっぱり洗い流しましょう

 

という

まあ

そんな、石鹸なんかで

ストレス洗い流すのは良いんですが

罪悪感まで、簡単に流しちゃって良いの?

 

と、何でも水に流しちゃう日本人としては、

男女を問わず

虐める側、虐められる側を問わず

意識に浮上させたくもない罪悪感を喚起されてしまうが故

微妙に「不愉快」なテーマです

 

マクベス夫人が血みどろの手を洗い流そうとしているトコロに

キティちゃん…はオランダ人なので…ポプ子等

日本人御用達のカワイイ(?)キャラが

「はい、牛乳石鹸なら、キレイになるよ!」

と石鹸を差し出すくらいなら、

皆そこまで居心地悪くはならなかったのではないでしょうか

 

ブレンディの宣伝は

私も観てギョっとしました…

日本の広告業界、トンガッてるなー

又々、この方の

日本の若者=畜牛*1

というメタファーを使って

自社イメージを「売った」点が炎上した所以

という分析に感激したので、貼っておきます

mistclast.hatenablog.com

 

卒牛式で…就職先ならぬ、就牛先が…

如何にもヤンキーな若牛は闘牛場に…

真面目そうな男牛も食肉産業に…

 

生き残れる牛は「エンターテイナー」でしかない…

 

究極的には

モノを生み、創り出すこと=(資本家に)搾取されること

にしかならない「資本主義」経済の歪みを

如実に描いていると感じます…

 

ブレンディのえげつない宣伝は

ユーチューバーになりたい

昨今の子供達の

ディストピアな世界観を

表現しているのではないでしょうか…

 

子供時代を卒業することで

男は食いつぶされ、女は性的に搾取される

という日本社会の歪みを風刺するモノだとしても…

凄惨なイメージがあまりにも生々しく想起されて…

最後の校長先生の好々爺オーラと相まって

もー、えげつない…としか言いようがない… 

 

牛乳石鹸も、ブレンディも…制作者の

ブランドのイメージを刷新し

商品を「売り込む」という表向きの意図は

失敗したけれど…

日本の近代化に伴う欺瞞*2や歪*3如実に…鋭く浮き彫りにした

「芸術作品」としては

ナイキの「わかりやすい正義」のプロパガンダに匹敵する

完成度の高いモノだと

私には感じられます 

*1:社畜って、この宣伝の後に流行った言葉なのでしょうか…

*2:罪は水に流してしまえば、OK!

それがダメならハラキリの美学がある!

的な…

原罪の重責に耐え忍ぶ欧米人にしてみたら理解不可能な

日本人独特な「倫理観の欠如」に対する受容的態度

*3:性愛も食もカネで買えるモノでしかなく

資本主義経済という冷酷なシステムに組み込まれた

「個人」は家畜と変わりない