精神分析のススメ

1970年代のNYCで一世を風靡したヒップな精神分析の啓蒙をめざす狂気専門家のブログです。

【ザ・コンサルタント】 高機能自閉症 と 父親機能 

発達障害と、制御不可能な破壊衝動について書いた

発達障害のメタファー 亜人 - 精神分析のススメ

直後に、寝不足で頭グルグルしながら

飛行機に10時間以上乗って、

普段は観れない (ちょっと古い)映画を

5-6本立て続けに観る機会がありました。

 

その中に高機能自閉症の主人公が出てくる*1

ザ・コンサルタント」も含まれていて…

 

うーん。

さすがは「人」(=男)が

「父」殺しの罪悪感=エディパス葛藤

に苛まれる欧米人

父親の機能や、破壊的衝動の描かれ方が

亜人」にみられる日本人の感覚とは

違うよなー

と感銘を受けたので、書いてみます。

 

原題は、「会計士(アカウンタント)」となっており

退屈で、冴えない、しみったれたイメージの会計士が

実はダークなスーパーヒーロー!(?)

という予想外の展開が待ち受ける

はずなのですが…

 

ザ・コンサルタント」だと

イミフな外来語効果でミステリアス

及び

ワケ分からんが、何となくカッコイイ…

印象を与えてしまい

意外性を全く狙ってない題名になっている...

 

ベン・アフレックも、

「グッド・ウィル・ハンティング」とか(若い!!!)

www.youtube.com

「ドグマ」でのマット・デーモンとの共演が、良い感じでしたが

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「あれ?いつの間に、

殺しても殺しても死なないブルース・ウィリスみたいな

役どころになっちゃったの?」

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って感じでびっくりしました。

 

助演女優のアナ・ケンドリックも、

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トロール」観てからは、

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「ポピーが何で?!」

としか思えなくなってしまったし…

 

まあ、そんなの、記事の趣旨に関係ないので、どうでも良いことなのですが。

 

半分寝ながら観たので、かなり、印象に頼って書いてます。

こちらの詳しいあらすじを大変有難く、参照させて頂きました。

blog.imalive7799.com

映画を御覧にならなかった方は、

このあらすじを読んでからでないと、

「ワケ分からーん」

ってなることでしょう。

 

最近多いのかもしれませんが

亜人」と似てる…

と思ったのが、人間関係の描写でツメが甘い…

主人公と父親(及び父親的存在)との繫がりや、

物語のカギとなる自閉症の治療施設

ハーバー神経科学研究所との繫がりが

掘り下げられておらず(「亜人」ほど説得力に欠けることはないにせよ)

謎に包まれたままなこと。

 

まあ、アクションがウリのハリウッド映画なので、

人間関係の機微をそこまで緻密に描く必要はないのかもしれません。

続編を出す予定なのかもしれません

只、発達障害系は、人との繫がりを「感じる」のが

とかく苦手なので

その辺も、もしかしたら意図的に狙った効果なのかもしれません

 

亜人」では、父親があっさり自殺していて

キャラクターの描写も

「え?何でこの人がこんなこと言う(する)の?」

という驚きでいっぱいでしたが…

ザ・コンサルタント」では、父親が

とにかく「強い」「厳しい」キャラであること

が大変印象的です。

 

父親のイメージが希薄で散漫な「亜人」の主人公は

何が何だかワケ分からんまま

全てを知っている父親的存在に

騙されたような形で

戦うことに「なってしまい」ますが

ザ・コンサルタント」の主人公は

「強く厳しい」父親的存在の指南の下

若かりし自分の無軌道な破壊衝動や

過敏な感受性に方向性を見出し

自分で決めた目的のために

「戦う」ことを意図的に選択し、

自己実現の道をたどります。

  

ベン・アフレック扮する主人公のクリスチャンは

幼少期に両親に連れられて、

ハーバー神経科学研究所で自閉症の診断を受けますが

父親は施設での治療を拒否します。

「外の世界は厳しい。

その厳しさに順応してこそ

障害を克服したことになる」

という信念に沿って、

父は、子供達を肉体的に、精神的に鍛えます。

 

自分の身を守る術を身につける為とはいえ、

「虐待かい?」

というような厳しい訓練を課す父親に

ビシビシ鍛えられて育つ、息子達…

 

クリスチャンの父親との関係には、

ちゃぶ台ひっくり返す昭和の父、

星一徹にも通じる*2

厳しい規律に準じ

肉体的、精神的強靭さにより

破壊的衝動のコントロール

ひいては建設的な自己実現を図る

という、洋の東西を問わない

普遍的「強い父」像が描かれているとも感じます。

 

そこで、ちょっと

「おや?なんで?」

と思ったのが

父親が治療を拒否したにも拘らず、

クリスチャンが特殊な治療プログラムに従い

ハーバー神経科学研究所と深い繫がりを維持していることです。

 

大人になったクリスチャンが

就寝前に、タイマーをかけて服薬し、

フラッシュライトを明滅させ、

音楽を大音量でかけながら脚をマッサージする

というシーンは、

彼が何らかの治療計画に沿っていることを示唆します。

 

自閉症児の中には、

治療や訓練によって健常者に近い機能を得る子供もいます

が…

自閉症はいかに高機能であっても

遺伝子の異常を伴う不治の病です。

 

クリスチャンの薬のラベルを読んだわけではないので

確信はありませんが…

彼が飲んでいるのは、

おそらくADD患者さんたちが

リラックスしたり集中力を維持するために欠かせない

精神刺激薬系のリタリンとかアデラル、

または神経の興奮を鎮める系のリスペリドンとかでしょうか

 

自閉症児は、光や音に過敏で、触られるのを嫌うため

刺激に慣れる様、訓練することが薦められることがあります。

こういった治療計画は

研究所が立てたものなのでしょうが

研究所の所長や、彼の娘との関係が

ごっそり物語から省かれていたので

私的には

「え?一体何があったん?」

と不満を感じました。

 

が、その部分を省くことで

お話的には主人公の父親との関係性を強調する効果がある

とも言えるかもしれません

 

主人公の実の父親は、

彼を肉体的に精神的にビシビシ鍛え

障害を持つクリスチャンが自分の身を守れるように

攻撃力をマックスに仕立て上げる

もろ「攻撃性の管理」専門という印象です。

その一方で

精神分析…てか、西欧思想に於いて

重要な「父」の機能とされております「理性」や「知性」で

主人公の鋭敏な感受性に方向性をつけ

「会計士」のクリスチャンを育てたのには

おそらく、ハーパー神経科学研究所の治療方針や

彼が獄中で出会うアブナイ会計士

フランシスの存在が大きいように感じます。

 

日本と欧米の比較とも言えますが

亜人」の主人公、圭の父親と比較して面白いのは、

彼が規律に反して社会的生命を失い自殺するのに対して、

クリスチャンの実の父親や

会計士としてのノウハウを伝授したフランシスが

殺されることです。

 

この辺りに、

エディプス・コンプレックスの根強さが

窺えると思うのですが

欧米の父親は運命と戦い

暴力的に排除されるのに相対して

日本の父親は、物分り良く(?)自分から死んで

若者に活躍の場をあっさり引き渡してくれる

(無責任とも言う)のかなー

などと、考えてしまいます。

 

ここで、「悪人」のクリスチャンを

商務省局長として追う

もう一人の父親的存在である

司法に則る善玉のレイが、

物語の終わりで退職するも排除されず

生き残ることが興味深いと思います。

 

まあ、ハリウッドなので「正義が勝つ」のは当然ですが。

って書いてたら、

これまた古い映画で

(しかも字幕なしの予告編で)すみませんが、

Catch Me If You Can キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン Trailers.tv 映画予告編tv ~映画予告編動画を探して連続再生しよう~

 

キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン - Wikipedia

でもトム・ハンクスが「悪いことした息子を追いかける父」を演ってたなー

と思い出してしまいました。

 

「キャッチミー」でも「コンサルタント」でも

「悪い」(=不十分)な父親を持った「悪い」放蕩息子が

抵抗しながらも

排除する事なく

求め得る「良い」「正しい」父親像が

物語に組み込まれている様に思われます。

 

「キャッチミー」も「コンサルタント」も

主人公(=息子)が司法という規律(=父親)に逆らい

追われながらも、自分のやりたい事(=正義?)

を貫くお話とも言えましょう。

 

父なるモノへの反逆と言えば、

実際、「コンサルタント」には、

(父親的)レイが、(見捨てられた息子である)クリスチャンに

殺されかける場面があります。

さあ、殺られるか、という瞬間、

クリスチャンはレイに問かけます。

レイは

「自分は完璧ではないが、良い父親である」

と応じて、見逃してもらいます。

 

このシーンが、

クリスチャン(=息子)ではなく

レイ(=父)の回想で語られることにも

意味があると私は思います。

 

父親殺しには堪え難い罪悪感や不安が伴います。

 

父なるモノとの対決の物語は、

息子の無軌道な暴力を赦し、

収束させ得た

生き延びる事ができた

父親の視点からでないと、

語り得ないのも当然のことでしょう。

 

「良い父親」がレイならば、

クリスチャンを殺そうとする

リヴィング・ロボティクス社のラマーは、

殺害し、排除すべき「悪い父親」でありましょう。

 

ここでも「亜人」の悪役、佐藤に比べると、

ラマーの極悪さは、金銭欲に駆られていると言う点で

至極明確な方向性を持っており、

理解可能、手に負える様に感じられます。

 

自分が人と違うだけで排除される

「理不尽」な社会に受け入れられる為に

その理不尽な社会の平穏を脅かす

凶悪な敵と戦う羽目になってしまう…

という「亜人」の「お話」には

「司法」や「規律」という

厳然たる正義が欠如した世界観

が反映されており…

 

「正しい」何かを求めて戦う

コンサルタント」のお話とは

全く趣が異なります。

 

欧米の

男性(man=人間)は

母親との一体感を

父親の「否」という言葉(知性や、規律の象徴)で切断されることで

男(人間)として「自立」を勝ち取る

のように、とってもラカンな解釈は

亜人」の世界観な

日本では決して通用しないのでしょう

 

何だか取りとめがなくなってしまいましたが

最後に、クリスチャンの弟との関係について、

男が大人になる意味が含まれているように感じたので、

ちょっと書かせて頂きます。

 

亜人」に描かれる

圭と同位置にある友人達との関係性は

一方的で深みを欠きます。

亜人」の圭は、他者との対立を極力回避し、

友達を独りよがりな思い込みで

「守る」ために距離を取ります。

 

対して、「コンサルタント」のクリスチャンと

弟のブラクストンは

映画の終盤で殴り合いの兄弟喧嘩を始めます。

 

ラクストンにとって、

クリスチャンは、障害を持つ「守るべき」「弱い」兄です。

父親に「家族はお互いを庇い合うものだ」

と教え込まれたブラクストンは、

兄を疎ましく思いながらも

自分が面倒を見てやらなければならない、

守らなければならない、という責任感を負って育ちます。

 

が、映画の終盤で、

守るはずのクリスチャン、弱いはずの兄に

逆に守られ、救われるという、関係の逆転が生じます。

 

この様な、面倒を見る者と見られる者との関係性の逆転というのは

 

本来守られ、与えられる存在であった子供が

成人して親の面倒を見るようになる

 

 という形で親子の間に経ち現れる瞬間でもあります。

 

それと同時に、

自分を救ってくれた研究所に対する経済的支援をする為には、

法に背き、殺人も厭わないという、

自分なりの正義を貫くヒーローでもあるクリスチャンが、

父親に培われた「力」を駆使して

闇の世界の住人となってしまった

ラクストンと和解する瞬間でもあります。

 

ハリウッド映画と漫画という全く違う

メディアで比べるのも無理があるかもしれませんが、

亜人」に比べると

より深みの在る関係性が描かれている様に思われます。 

 

亜人」に描かれている(ように私には思える)

発達障害者の

「どうしてよいか分からない、行き場のない破壊衝動」

との終わりなき戦いが

ザ・コンサルタント」では

強い父親、良い父親のお陰で、何とか治まりがついているが故、

自閉症

「親密になりたい気持ちはあれども、どうして良いか分からない」

内的経験にも、なりに焦点が当てられて、

中々面白い「お話」に仕上がっていると感じました。

 

因みに、高機能…ではありませんが、

自閉症と言えば、

かなり古い映画ですが

ダスティン・ホフマン好演の「レイン・マン」

Rain Man レインマン Trailers.tv 映画予告編tv ~映画予告編動画を探して連続再生しよう~

レインマン - Wikipedia

の方が、現実味あるかな…

って、会計士が闇のヒーローな

ザ・コンサルタント」に現実味がないのは、

当たり前ですね。

てへ。

 

崩壊した日本語で

とりとめもないお話にお付き合いくださり

最後まで読んで頂いた皆様には

感謝の念で一杯です。

*1:ベン・アフレック主演のハリウッド映画なので、

こんな子供時代で高機能って…無理ちゃう?

みたいな、無粋なコメントは控えます

*2:巨人の星」はっきりいって

あまり覚えていないのですが…

私にとって、熱血スポーツマンで愛情深い

古典的父親像になっていると思います